マンションの闇はより深くなっている

2月から3月は1年を通して不動産の繁忙期です。堤エステートは会員制なのであまり繁忙期は関係ありませんが、今年の2月・3月は忙しかった!

売却希望や購入期限付の会員様が多かったからですが、久しぶり1日何件も購入のための内覧をしたりして動き回っていました。

複数物件の内覧は結構大変です。見たい物件はそれぞれ場所も仲介業者も違います。物件の鍵は原則的に案内日当日しか借りることができないので、物件の場所と業者の場所を確認して効率よく周るルートを考えつつ、業者に鍵を借りに行く時間を連絡して(これが街中だと車が止められないため余計に時間がかかる)鍵を借り物件を案内、そしてまた鍵を返しに行く、これを複数するとまぁ大変です。

しかし今回、久しぶりに一度にたくさんの業者に会ったことで直近の業界と市場の状況を見ることができました。その中で目の当たりにしたのはマンションの闇がより深くなっていることでした。

業者も把握してない問題点

私は以前からマンションの闇を訴えてきました。詳しい内容は下記ページをご覧いただきたいのですが、分かりやすいのは『修繕積立金』の問題です。

今回、複数のマンションを検討・内覧する際に事前に調べられるものは仲介業者に電話で聴き取りをしましたが、自分が取り扱っている物件のことを良く分かっていない業者が多数見受けられました。特に『修繕積立金の総額』はマンションを維持管理していくうえで一番重要な情報ですが把握していない業者もいました。

この『修繕積立金の総額』を業者が知るには、管理会社が有料で発行する『管理に係る重要事項報告書』を取得しなくてはいけませんが、この取得金額はここ近年値上がり(高いところでは2万円程度!)をしています。『管理に係る重要事項報告書』は買いたいお客様が決まり重要事項説明をする直前のものが必要なので、経費節減のために販売時には取得していない業者も多いという事情もあります。

私はマンションの売却を依頼された場合、所有者に管理組合によるマンション総会時の報告書を見せてもらって金額を確認しています。『修繕積立金の総額』は年に1回行われる管理組合の総会で報告され、報告内容は総会報告書に記載されています。この書類は居住者全員に配られるので、それを確認することで貯まっている『修繕積立金の総額』は把握できるはずです。

売却物件の確認事項や問題点を全て把握するために調べることは多岐に渡りますが、そのようなことをしていない業者が多く驚きました。

複数の検討物件を会員様と机上で選定し6件のマンションを周ることにしましたが、その中では驚愕した物件がいくつかありましたので物件名は伏せますがご紹介します。

積立金の安さには理由があった

1件は私も昔から気になっていた物件でした。福岡有数の高級住宅地近くの高額物件で築年数は経過していますが広さが100㎡以上あります。私が以前から気になっていた理由は有り得ない額の修繕積立金でした。

管理費は5万円以上なのに修繕積立金はその約16分の1なのです。その上、戸数も少なく「このマンションは将来的に必要となる積立金はどうするのだろう…??」と常々思っていました。

会員様は当初からこのマンションが気になっていましたが、私は積立金の安さを理由に「止めた方がいい」と伝えていました。しかし売出当初から金額は徐々に下がっていたのでとりあえず内覧してみることに。

物件は立地や環境も良く何よりも建物のグレードが素晴らしい!バブルの頃に計画・建築された建物で、エントランスや室内の部材・建具などマンションではなかなかお目にかかれない仕様です。また部屋は上階層のため陽当たりも良く、全面フルリノベを考えられている会員様にとってはいい物件かもしれません。また問題となる修繕積立金の件も、居住すると発言権もあるので会員様自らが改革することもできるかもしれない…、そんなことを会員様と話し合っていました。

仲介業者は大手不動産仲介会社です。まずはあまりにも目を引く積立金の安さを聞くと、そもそもこのマンションの上階層は地権者が保有した非分譲の部屋が多く、その人たちを中心とした住民の力が強いとのこと。しかし将来のことを考えると「修繕積立金の値上げは必須」と管理会社も提案しているそうですが反対されて今に至るとのことでした。

このことを聞くとマンションの闇の原因がいくつか浮かび上がります。

マンションの維持管理に係ることは住民自らが行い、住民によって構成される管理組合が管理・運営します。管理会社はこの管理組合から選定された管理を代行する企業です。

建物はメンテナンスを施さないと傷むため耐用年数は短くなります。そのためメンテナンスや補修工事、多額の資金が必要となる大規模修繕等を定期的に施します。それらメンテナンス費用のために計画的に修繕積立金を貯めていきます。

修繕積立金は戸当たりで徴収するため、マンションの戸数が少ないということは、月々それなりの金額を徴収しないと必要となる資金は貯まりません。

大規模修繕に必要な資金が貯まっていないマンションは、修繕積立一時金としてまとまった金額を新たに住民から徴収するか、金融機関から借入をすることになります。この金融機関からの借入というのはマンションの借金のため、返済していかなくてはいけません。修繕積立金も心許なく借金まであるマンションに住みたい人は少ないのではないでしょうか。

戸数の多いマンションだと大勢の人数で負担し合うため、戸当たりの金額も抑えられるというメリットもあるので、私はマンションを検討する会員様には総戸数を重視するようにアドバイスしています。

居住している方々が皆さん経済的に余裕があり、いざというときそれなりの金額を出すことができる場合はいいでしょう。しかし居住している方の経済状況は様々なので、マンションの維持管理の議題の合意を取るのも大変です。

高齢の居住者が多いマンションで若い居住者が将来のために修繕積立金の値上げを提案しても、なかなか過半数の合意を得られない…そんな話もよく耳にします。

特に年数の経ったマンションなどは販売時の物価状況の違いから、安い積立金のままのマンションも見受けられます。いざ値上げをする時にも住民過半数の合意が必要となるため、住民間で揉める可能性も高まります。

また力を持つ住民がリーダーシップを発揮していい方向に向かうマンションもあるでしょうがその逆もあるということです。今回、極端に積立金が安いマンションなどはこのようなパターンに当てはまるかと思います。

マンションを販売するデベロッパーは『とにかく建築したマンションを売りたい』だけです。将来の住民のことなど深くは考えていません。そのため販売時の修繕積立金は安く設定して月々のコストを抑えて営業します。

現在は新築分譲時に修繕積立一時金を別途徴収するマンションも増えているようですが、依然として月々の修繕積立金は低く抑えているマンションも多いと感じます。高く設定すると売れませんからね…。

マンションを造って販売するデベロッパーは建て続けなくていけないビジネスモデルです。今まで多くの地場マンションデベは消えていきました。現在残るのは資本力のあるJR九州や西鉄等の企業と新興地場マンションデべの数社です。とにかく売り続けないと生き残れない、それがマンションデベロッパーということを知って欲しいものです。

私は昔から言っていますが、デベロッパーがマンションを建築する前の確認申請段階で、修繕積立金や長期修繕計画等も審査制にして国や行政自らが取り組み、適切なマンション運営の基礎を作るべきではないでしょうか。

ここ最近はメディアも少しづつ『修繕積立金』は『管理の問題』を取り上げていますが、国や行政も放置し続けていたマンションの様々な問題、この問題は消えることなく今後も膨らみ続けています。

国土交通省は平成23年4月に策定された『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』で㎡あたりの月額修繕積立金の目安金額を公開しています。最新版である令和5年4月追補版は下記リンクをご確認下さい。

マンションの修繕積立金に関するガイドライン|令和5年4月追補版

国土交通省

また令和6年2月には『マンション修繕積立金の目安 毎月の徴収額に下限 国交省素案』というニュースも流れました

マンション修繕積立金の目安 毎月の徴収額に下限 国交省素案

マンションの修繕積立金が不足するケースが相次いでいることを受けて、国土交通省がまとめた、積立金の徴収額の目安に関する素案が明らかになりました。毎月の徴収額に下限を設け、当初から計画的な積み立てを求める方針です….

NHK

しかし国土交通省の提言は形骸化しており、行政に関しては取り組んでいる様子は見受けられません。マンションはそれぞれ積立金の貯まり具合や修繕履歴等も個別毎に違います。一律の策定では難しいものがあると感じています。また現在計画・建築中や販売中のマンションだけでなく、既存のマンションに関しても周知徹底と強制力を設けるくらいの事はしてもいいと思います。

とは言いつつ現状ではもうどうすることもできないマンションの問題、ある種の諦めを持ってこの状況を眺めています。だからこそマンション購入の際には物件の目利きが必要となるのです。

結局、この物件は諸問題もあるため見送ることになりました。

管理会社もミスをする

別の物件は築年数はそれなりに経過したマンションでしたが専有面積も広く価格も手頃、エントランス等の清掃も行き届いており管理状態は良好な物件でした。

この物件の仲介業者は珍しく内覧時に『管理に係る重要事項報告書』を管理会社から取得していました。内容を見ると大規模修繕も少し前に終わっている割には積立金総額もそれなり貯まっているようで「まぁこれなら内覧して良かったら検討してもいいかな?」と思えるものでした。実際に内覧をすると悪くない物件で、価格の手頃さから会員様も心を動かされたようです。

しかし少し気になる点があったため私が直接管理会社に問い合わせたところ、なんと仲介業者が取得した『管理に係る重要事項報告書』では借入金残高が『なし』となっていたのが、本当は5,500万円以上の借入金があったのです!そうなると積立金総額と借入金で計算するととても貧弱な積立金総額になります。

管理会社は正直に記載ミスを認め修正した『管理に係る重要事項報告書』を送ってくれましたが、通常『管理に係る重要事項報告書』の内容を改めて確認することはほぼありません。「もしこのまま購入に至ると大変なことになったな…」と改めてより深い調査の必要性を感じたものです。

こんなことが数件のマンションを調査しただけで問題点が表面化したことに、マンションの闇は深まっていることを確信しました。

これからのマンションはどうなる?

日本は人口減少時代に突入しています。家を購入する人は減り続ける中、新築マンションは次々に建ち続けています。大型マンションの計画が発表されるたびに「誰が買うのだろう?」といつも思っています。

先にも書いたようにマンションは住民によって維持管理されます。人が住まなくなった部屋にも所有者はいますが、古いマンション等には所有者が入院したり死亡したりして、所有者の居所が分からなくなるケースもあります。そのようなときにはひとまず管理組合が何とかしなくてはいけません。

不動産を買う人が少なくなるのなら外国の方に販売するという手段もありますが、管理組合に加入してルールを求められるマンションの住み方に馴染めない外国の方もいるでしょう。そもそも普段マンションには住んでいない方もいます。実際に居住している人と住んでいない人のマンション運営に関しての温度差は違うのではないでしょうか。マンションを維持管理するために管理組合の運営も含めて今後の課題点は増えていくかと思われます

また近年、大量供給されている空高くそびえるタワーマンション等は大規模修繕の経験や事例もありません。通常のマンションより工事費が嵩むのは間違いないと思われますが、それに住民が着いてこれるでしょうか?

もちろんマンションにはマンションなりの良さがあります。立地のいい場所に居住するためにはマンションを選択肢に入れないと住まいを見つけることが出来ない場合もあります。そのためにも様々なデータや情報をもとに精査して検討することが重要になります。

20年後、30年後の風景はどのようになっているのでしょうか。先のことは誰にも分かりませんが、一不動産業者として未来を憂いています。


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