今後の不動産市場において【両手仲介】は禁止すべきと思う理由

前回の時事放談で『優良物件購入のライバルが不動産業者である理由』の記事をお届けしましたが、今回は【両手仲介】の問題点について深掘りをしてみることにしました。

不動産市場と業界の変化

私が不動産業界に飛び込んだとき世は平成バブル。不動産は売れに売れ、1日で価格が爆上がりするような狂った時代でした。平成2年に堤エステートを開業しましたが、その時は今の不動産市場とは全く違う札束の飛び交う世界でした。その後バブルが崩壊して業界の狂乱も沈静化しましたが、私は不良債権処理の波に乗りかなり忙しい時期を過ごしました。

市場に目を向けると、バブル崩壊を過ぎても自宅を購入したい人はそれなりに多くいました。ネットが無い時代のため広告は住宅情報誌や新聞、チラシやオープンハウスなど、物件広告を出せば何かしらの反響はありました。

しかしここ数年感じることは、新規物件を登録してもなかなか反響のない物件が出てきました。売れる物件も少なく感じますが、不動産を購入したいお客様自体が減ってきているのは間違いありません。友人や知り合いの業者も口を揃えて『お客が少なくなった』とぼやいています。

良質な物件も少ない状況が長らく続いています。空家も増えているはずですが、そのような物件は相続の問題や所有者が日々に追われて不動産業者に売却依頼をするまで行きつかないことも多いようです。

先般、NHKスペシャルでも『老いる日本の住まい』という特集が放送されていましたが、日本の不動産はいろいろな問題を抱えています。

老いる日本の“住まい” 第1回 空き家 1000万戸の衝撃

いま都心の一等地から郊外のニュータウンまで空き家が急増。持ち主に取材すると、「解体費用」「親の思い出」などが理由で壊すことも売ることもできずにいる実態が明らかに….

NHK スペシャル|初回放送日: 2023年10月1日

そもそも日本は新築信仰が強く、スクラップ&ビルドの考え方によって少子高齢化に突入している現在でも、新築マンションや新築一戸建ては建てられ続けています。

日本は新築住宅にたいしては減税や補助金等、数々の優遇制度が設けられています。住宅は経済に対して影響する裾野が広いため、国が景気を活性化させるためにを政策を推し進めるのは理解できますが、中古住宅に対する取り組みとは大きな差があるため、いつまで経っても中古市場は活性化されません。

【2023年版】住宅の新築・取得時の減税・優遇制度・補助金制度を解説! 100万円以上のメリットが多数あり!

住宅の新築や取得時には、さまざまな減税措置や税制優遇、補助金の制度があります。中古住宅やリフォームした住宅と比べると、補助制度は充実しており、金額が大きいものもあります….

ダイヤモンド不動産研究所

人口は減少し空家は増えているのに、建物は続々と建てられ続けている現状ですが、マンションデベロッパーやパワービルダーは造らないと事業を継続することができません。しかしこの状況が未来永劫続くはずも無く、今後は多くの企業が淘汰されていくはずです。

それでも益々供給は増える物件、そもそも日本は人口減少時代に突入しており、今後は購入層が先細りすることは明らかです。ここ数年の高値で物件が売れているのは外国人による購入も多く、30年間賃金が上がらない日本の一般庶民に不動産はなかなか手が出ないのが実情です。

一方、不動産業者に目をむけてみます。近年のアベノミクスによる低金利政策によって購入層は広がりをみせました。『今、支払っている家賃と同じくらいで家が買える』という営業トークで不動産業者は数字をあげることに躍起になっていました。

2008年に起きたリーマンショック以降に開業した10年程度の不動産業者は上り調子の不動産市場しか知らず、価格は上がり続けてもはや一般ユーザーが付いてこれない市場になっていることに目を伏せつつ、夢を見続けているように感じています。

市場に手頃で良質な物件がでてこない理由

世界的不況の足音が感じられる中、価格が高くなりすぎた日本の不動産市場では、手頃な価格で程度のいい良質な物件は少なくなっています。

良い物件は軒並み価格が高くなっています。価格高騰の原因は近年の地価や、部材や建築費の高騰も要因のひとつです。それ以外に価格高騰の一端を担っているのが、買取業者の増加です。

買取業者が増えた理由は、前回の時事放談『優良物件購入のライバルが不動産業者である理由』で詳しく説明しています。ぜひ合わせてご覧ください。

売れる商品もお客も少ないなか、売主から依頼された売却物件は業者自らが買手をつけて、1回の動きで効率よく稼げる【両手仲介】をしたいのが不動産業者の本心でしょう。

仲介業者は売却依頼を受けた物件を買取転売業者に卸し【両手仲介】を行います。その物件を買取業者が再販する時にご褒美仲介としてさらに【両手仲介】を行うのが、業者にとっては非常に効率的な美味しい仕事となります。

買取再販業者に仲介することで1回目の仲介手数料をGET

●ご褒美仲介によって2回目の仲介手数料をGET

仲介業者の利益である仲介手数料は『成功報酬』であり、取引件数が多いほど実入りは大きくなります。また買取転売業者とっても仕入れには欠かせないのが物件を持ってきてくれる仲介業者であり、給与のかからない成功報酬で物件売る営業マンでもあります。

10年前位までは買取業者の数も少なかったので、売却依頼を受けた仲介業者は『ふれんず』等の各種媒体に物件情報を登録してお客様を募りました。またお客様の数も多かったので【両手仲介】に固執する業者もあまり多くは見受けられませんでした。しかし売上が上がりにくい現状の今、不動産業者も利益を得やすい、すぐに買取ってくれる買取業者に物件を持ち込むケースが増加したのです。

このような事情から割安な物件は業者間を巡り、市場に出るころには業者の利益が乗った状態で販売される仕組みになっています。

これがなかなか一般ユーザーの目に触れない理由のひとつです。

【両手仲介】の大きな問題点

市場に物件が出てこない原因の一つなっている仲介業者と買取業者による【両手仲介】。問題点はこれだけではありません。それは本来、仲介で売ればもっと高く売れる物件を、『すぐに現金化できる』という理由から仲介業者が買取業者に物件を仲介するパターンが増えていることです。

保有不動産の売却を依頼する一般エンドユーザーの売主にとって、一般市場で売却をする通常の仲介ではなく、買取業者に物件を卸されると、本来高く売れるはずの物件が市場より安い金額で売却するケースが多くなります。

買取転売業者にとっては『転売』が肝であり、商品である物件を相場より高く仕入れる訳にはいきません。仕入れた物件はリフォームをして付加価値を高め、そこから利益を追求するのがビジネスモデルです。商品化された物件の販売は、仕入れ先の仲介業者に任せる『ご褒美仲介』も一般的です。

このように持ちつ持たれつの関係の転売業者と仲介業者ですが、長らく続いた上昇相場が足踏み状態となり、売れ行きは鈍化傾向にあります。売る商品がないと生き残れない業者にとっては、潮目の変化を感じているはずです。だからこそ少しでも効率よく以前のような高い利益を目指したいと、多くの業者は思っています。

売却を希望する一般ユーザーがこの現実を認識して、売却しようとしている物件の適正価格を知ることが、高値で売るポイントでもあります。

そもそも【両手仲介】は利益相反

『売主』と『買主』は利益相反であり、その間に入る仲介業者が1社となる【両手仲介】は両者にベストな取引と言えるのでしょうか?

もちろん全ての【両手仲介】が悪いわけではありません。『時間をかけずに売却したい』『すぐに現金化したい』『事故や問題が多い物件なので売却に手間がかかる』このような場合には、業者に売却することでスムーズに事が運びます。

しかし特に急ぐわけでもなく条件の良い物件だったら、物件を探している一般ユーザーに向けて売却活動をする方が高く売れる確率が高くなります。

また一人の仲介業者が『高く売りたい売主』と『安く買いたい買主』それぞれの代理人として仲介をするには利益相反になります。

健全な仲介業務は信頼できる仲介業者をそれぞれ代理人して媒介契約を結び、プロ同士の確認事項や交渉を行ってもらうことが不動産業者の役目と考えます。

事実、弁護士は民法第108条や弁護士法第25条等により、利益相反となる双方代理は原則的に禁止されています。2015年に宅地建物取引主任者から宅建士に変わりましたが、不動産業者も『士業』として双方代理となる【両手仲介】は原則的に禁止すべきではないかと思います。

自己の利益のみ追求する姿勢では、いつまで経っても『不動産屋』のままではないでしょうか。

不動産業者数に対して縮小する不動産市場

国土交通省の調査によると令和4年3月末時点で不動産業者の数は8年連続で増加しています。

参照:令和3年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について

令和3年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について

令和3年度における宅地建物取引業法に基づく国土交通大臣及び都道府県知事による免許・監督処分の実施状況及び宅地建物取引士登録者数の状況についてとりまとめました….

国土交通省

平成20年に起きたリーマンショックの余波によって平成25年に業者数は底を打ちました。その時期は民主党政権が終わり、アベノミクスが始まった時期と一致します。国の低金利政策によって不動産市場は右肩上がりの活況となり、一攫千金を夢見る不動産業者が数多く誕生したのは数字にも現れています。

この頃から金融機関も不動産業者への融資を増加させたことから、猫も杓子も不動産買取業に参入しました。なぜ多くの業者が買取業者になるのでしょうか?それはズバリ、仲介業より大きく稼げるからです。現在は多くの業者が買取物件を探しています。業者間情報でも『買取物件求む』のチラシが多数挟みこまれています。

そもそも他の業種に比べると不動産業で特に売買は、1度の取引で大きな売上と利益を得ることができます。参入障壁も低いため不動産業界に参入する人を多く見受けられますが。しかし買取転売は一度失敗すると大きな損失を生み出し、会社の存続も危ぶまれるケースもあります。

今までうまく立ち回れた10年選手の業者でも、今後は経験したことない市場の縮小に直面することでしょう。世の中の動きや経済も知らず、運だけ生きてきた不動産業者は淘汰されていきます。

国や業界団体に求む英断

宅建協会のHPにある定款の目的には『宅地建物取引業の適正な運営を確保する』との記載されていますが、業者数に対して人口減少の日本は今後、市場が縮小することは明らかです。

そこで今、不動産市場で蔓延している【両手仲介】を無くすことを提言します。

【両手仲介】を無くすことで、売主・買主それぞれに仲介業者が付くことになるためワークシェアリングとなり、多くの不動産業者が業務に携わることができます。

不動産のプロとして仲介実務で切磋琢磨しそれぞれの顧客に対し真摯に業務取組む、このことで不動産業は大きく変わります。

業界関係者は、今後の不動産市場が少子高齢化によって取引件数はジリ貧となることを見据え、広い視野を持つべきです。今こそ、業界も長年提言を続けているバイヤーズエージェント制、セラーズエージェント制への舵をきる絶好のタイミングだと思います。

果たして国や業界団体が英断できるのでしょうか?


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